第4話 内容・ネタバレ
ー川沿いのほったて小屋ー
信の渾身の飛び斬りが朱凶の左肩を斬り裂き、朱凶がドッとその場に倒れこむ。
「漂の仇…思い知ったかよ!バカ野郎!!」
信がとどめを刺そうとした瞬間、朱凶が命乞いをはじめた。
「家族がっ!4人の子供がいる!俺が死んだら全員孤児になる!どうか命だけは!子供らのためにどうか命だけはっ!」
「孤児」という言葉に、信は自らの境遇を重ね、とどめを刺すことをためらう。
朱凶はその機微を読み取り、小さく笑う。
「ありがとう!ありがとうございます!」
その瞬間
政の刃が朱凶の首をはねた。
「嬴政…貴様……」
「お前の罪とお前の子は関係ない」
首をはねられ、息絶える朱凶。
そして政が言った。
「次はどうする。俺を殺すか?」
人の死を眼前にし、息を飲む信は政の言葉に我に帰る。
その信を無視して政が続ける。
「俺も黙ってやられるわけにはいかない。俺を守るために死んでいった人間が少なからずいるからな」
「漂もそのうちの1人だ」
信は何も返すことができず、ただ黙るばかりであった。
ー秦王都 咸陽ー
咸陽では、今回の大王暗殺の首謀者、王弟・成蟜(せいきょう)が異形なる大男を従え、広間を歩いていた。
「兄の首はまだか」
すぐにでも首を持って帰る「はず」と言う臣下に苛立ちを見せる成蟜を、丞相・竭氏(けつし)が諌める。
「我には”長平”を地獄と化したあの配下達がおる」
「それでこそ我が丞相」
シンと静まり返った広間に成蟜の低い笑い声が響く。
ー川沿いー
漂を間接的に殺した政を前に、信はどうすればいいか決めかねていた。
ーこいつは漂を殺したも同然だ。しかし、漂が俺に託したのはこいつだー
思い悩む信を前に、政は突然ひざまずき、地面に手を当てた。
「まずいな…」
「ぎゃああああああ」
「ひいいいいいいいいい」
近くで多くの悲鳴が聞こえる。
丞相・竭氏が放った兵が黒卑村に到着し、住人の皆殺しを始めたのであった。
兵は四方に配置され、唯一の脱出経路であった川にも船団の姿が…
玉璽もなく兵が動いた様子を見て、軍系統が王弟側に牛耳られたことを悟る政。
ー反乱を察知しながら鎮める力がない時点で勝負はついていたかー
半ば諦めかけた政をよそに、信が言い放った。
「くそっ!それじゃあもうひと暴れするか!」
軍と戦うと決めた信に驚きを隠せない政。
「こんなところで死ねるか!しっかりついて来いよ!」
「ついて来い?」
仇であるはずの自分について来いと言う信の言葉に驚く政。
「お前を殺すかはこの包囲を突破してからゆっくり決めてやる。だからはぐれるんじゃねえぞ!」
これが”今”信の出した答えだった。
「よし!行くぞ!!」
駆け出した2人の前に突如飛んできた謎の物体。
その正体は黒卑村で通行者を住人に知らせ日銭を稼ぐ梟の姿をした者であった。
ーなんだこれは…
初めて見る奇妙な物体を前にして怪しむ政。
「抜け道を知っている。ついて来い」
手招きして誘う、梟姿。梟姿が言うには、このお尋ね者達の村には抜け道が無数にあり迷子になるほどだと言う。
一度この梟姿に自分を売られたことがあるため、信用できず切り捨てようとする信を政が止めて尋ねる。
「なぜ俺達を助ける?」
「王様なんだろ?あんた。なら金持ちだ」
「金目当てか。その方が信用できる」
「オイオイオイ!こんな顔も名前も得体も知れねえ奴どこが信用できるんだよ!」
冷静な政をよそに、信はなおも疑っていると…
「河了貂(かりょうてん)だ」
梟の被り物を取り、顔を現す梟姿はまだ幼い子供であった。
まだ納得のいかない信を無視し、3人の脱出が始まった。
第4話 感想・考察
朱凶を倒し、ついに黒幕である成蟜も登場した今回。
際立っていたのは、信と政の考え方の違いでした。
感情で動く信。朱凶の命乞いに心動かされ、とどめを刺すことをやめたり、一度自分を売った河了貂を信じられなかったりしています。きわめつけは、漂の仇である政をどうしてもその場で討つことができず、考える時間を作るため、まずはこの急場を凌ぐことを優先させています。
一方の政は非常に冷静に物事を見て、論理的に物事を考えます。朱凶の件も子供と本人を別として考え、河了貂も金という信頼であっさりと契約を結ぶ。
論理的で一見正しいように見える政ですが、動員された無数の兵を前に諦めかけてしまう面も見られます。
そこを感情で考え、動く信の一言で諦めずにこの場を脱出するという選択をするのです。
信・政・河了貂のトリオが結成される記念すべき回ですが、信と政の2人を見るだけでも正反対で、三国志の劉備・関羽・張飛の3人とはまた違い非常に面白いです。
さらにここに河了貂が加わることにより、このトリオがさらにバランスよくまとまっていきます。傍目にはバランスよくないですが(笑)
ここから当分はこの3人で行動していくので、そのやりとりにも注目です。