第3話 内容・ネタバレ
ー川沿いのほったて小屋ー
「漂…!?」
小屋の中で凛としたその男に信は尋ねる。
男は瞬間思案した後、こう答えた。
「違う。政だ」
一方その頃、黒卑村で信にやられた住人の所に、追っ手の大男がたどり着いていた。
住人をすれ違いざまに切り落とし、歩を進める大男。
全身を赤黒で覆ったその男は200年続く暗殺集団「朱凶」の手の者だったのだ。
ほったて小屋の中では、政という聞きなれない名に戸惑う信に政が語りかける。
「お前が信か」
なぜ俺の名を?漂となんで同じ顔?これは一体?疑問を矢継ぎ早に投げかける信。
政が答える間も無く、小屋の前に人影が見え、小屋を真一文字に切り裂いた。
小屋が崩れ落ちる前にギリギリ脱出した信と政。
立ち上がった信の目の前には、刺客の大男「朱凶」が立っていた。
朱凶がニヤついた顔で言う。
「命をもらうぞ。”秦王”嬴政(えいせい)」
漂そっくりの男の正体は、秦国の大王だったのだ。
朱凶が続けて話すには、瓜二つのガキが秦王の替え玉だったこと。そのガキはかなりの手練れだったこと。そのガキがしぶとかったおかげでここまでたどり着いたこと…
信は側で話を聞き、全てを悟った。
漂は秦王の替え玉になるために王宮へ連れて行かれ、王の身代わりとなって死んだ。。。
信の怒りは嬴政にも向かったが、まずは漂を殺した朱凶への敵討ちが先だと考えた。
「漂を殺したお前の腹ワタ引きずり出してやる!」
朱凶は信の強烈な剣撃を受けながら冷静に信の戦力を分析していた。
ー漂という替え玉と力、速さ、技のレベルはほぼ同じ。そしてこのガキの方が伸びしろははるかに広く、深い!
だが…
「5年早かったな!!」
朱凶は大きく振りかぶると刀を振り下ろし、続けざまに左薙ぎの2連撃。
かろうじてこの2撃を防御したものの、体を浮かせてしまった信の顔面を朱凶の右蹴りが捉え、クリーンヒット。
崩れた小屋に吹き飛んだ信を前に、朱凶はここでも冷静だった。
まだ息はあるが、立てまい。そしてもう気が切れた。
う、、ぐ、、、強え…
よく考えれば漂が負けた相手だ…俺が敵うわけがない…
「何も考えるな」
「ただー」
「漂の無念を晴らすことだけを考えろ」
諦めかけていた信に、政が言い放つ。
「お前が漂の名を口にすんじゃねえ!!!」
政への怒りで立ち上がる信。
「くだらねえ兄弟喧嘩なんかに巻き込みやがって!」
信の一言に政が反応する。
「下らんだと?」
「ああ下らねえ!俺たち底辺の人間なんて王が誰だろうと興味ねえんだよ!」
漂との未来を王や国の都合で潰されたことへの怒りが信の剣に乗る。
「あいつはもう生き返らねえんだぞ!!」
ー信の方が強い?
政は漂との生前の会話を思い返していた。
「信は私が勝てない猛者にも勝ちます。信は常に真剣ですが、私とは互角なのです」
「フッ。面倒くさそうな奴だなそいつは」
「そうなんですよ」
ーしかし、本当に強いですよ、信は!
ついに信の刃が朱凶を捉える。
朱凶も逆上し、信に斬撃を浴びせるが、信も負けじと食い下がる。
こ、ここここの俺がっっっ、き、きき斬られてる、、、
「小僧っっっ!!」
朱凶の一閃。しかし、そこには誰もいない。
ー大王様、もしも私が倒れた時には信におつかまりください。
あいつはきっと、、、誰よりも高く翔ぶー
飛翔した信の渾身の一振りが朱凶の剣を砕き、右肩から深く切り捨てた。
第3話 感想・考察
漂に似た男はなんと秦国国王の嬴政でした!
戦国時代にはよくあることですが、漂は影武者として王宮に呼ばれたんですね。
残酷なことではありますが、戦国の世の常です。
そして、信の初めての真剣を使った実戦!
真剣を持つこともおそらく初めての信が暗殺者と互角の戦いを繰り広げます。いきなり中高生がガチの暗殺者と互角に渡り合うというのはかなりの無理がありますが、、、
漂との仕合が壮絶なものであったということを物語っていますね。
そしてこの話では政の賢さが出る部分でもあります。
おそらく漂から信の性格を聞いていた政は、あえて信の怒りを焚きつける形で鼓舞することで実力以上の力を信から引き出し、朱凶を討つことに成功します。
政のとっさの機転が光るシーンです。
また、政からすると自分が支配する対象であった民が、実は全く統治者に興味がないということを信から聞いた時に取る態度も印象的で、王族の心情がよく描かれていて好きです。
信が朱凶に勝利するシーンですが、最終ページが無音で描かれている描き方、とても好きです^^読み手の想像に任せてもらえるので想像力が広がりますね。
第1話でも同じような手法が取られていますが、今後も出てくるはず(多分)