第5話 内容・ネタバレ
ー黒卑村抜け道ー
いぎゃっ
ぎゃあああああああ
地上で黒卑村の住人が秦軍に惨殺されていく中、信、政、貂の3人は抜け穴の中にいた。
真っ暗な穴の中をある程度進んだところで貂が火をつける。
わずかな明かりの中、地上から滴り落ちる住人の血…
貂の家族を案じる信に対して、貂は家族はいないという。
貂は話を変え、平民の信がなぜ大王である政にタメ口なのか訪ねた。
「お前だってタメ口じゃねーか!」
信が反論すると、政は自分の王様ではないと切り返す。
貂は秦の人間ではなく西の山民族のため、秦とは無関係というのだ。
そんな話をしながら抜け穴を奥へと進む3人。
ーちくしょう。何やってんだ俺は。こいつのせいで漂は死んだんだぞ。こいつのせいで…
まだ気持ちの整理がついていない信は、改めて脱出後に決着をつけることを決める。
「そういえば、なんで王様が兵に追われてんの?」
道を進みながら貂が聞く。
「弟の反乱があったからだよ」
信が答える。
「でも変じゃね?事前に反乱があるってわかってたから替え玉用意して黒卑村に隠れてたんだろ?そんなことするより事前にわかってたんなら未然に叩き潰しゃいーじゃん」
「なんでそんなに逃げ腰満点なのさあんた!王様のくせに!」
政は貂の叱責に答えず、道を進む。
「反乱を未然に防げなかったのは、俺にただ力がなかった。ただそれだけのことだ」
政は表情は変えぬままさらりと言った。
政は、前王、前々王が即位後数年で世を去ったことにより、13歳という若さで王位についた。
13歳では執政もできず、お飾りの王であった。
そこで朝廷の権力は2人の丞相によって2分されることになる。
1人は右丞相である呂氏(りょし)
呂氏は商人から丞相まで上り詰めた人物で、政の庇護者となった。
もう1人は左丞相・竭氏(けつし)。今回の反乱の首謀者の1人でもある。
その竭氏が密かに玉座を狙っていた王弟・成蟜(せいきょう)と手を結び、今回の反乱が起こることになる。
ーとある夜・竭氏の屋敷ー
夜更けに左丞相・竭氏を訪ねる人物がいた。
その人物は王弟・成蟜。
成蟜は語る。
父である荘襄王(そうじょうおう)は20人もの兄弟の末っ子で本来王になれる人物ではなかった。
しかし、大商人の呂氏の後ろ盾による莫大な賄賂のおかげで王位に就くことができた。
そしてそのおかげで、政も王位に就き、成蟜も好き放題できる。
「大した男ではないか、呂氏は。一介の商人から一国の丞相にまで上り詰めたのだ」
そこまで話して成蟜は敦という若者を呼ぶ。
敦も貧しい出自ながらに自分の才能でのし上がり、成蟜の側近にまでなった。今では屋敷を持ち、自分を捨てた親に仕送りまでしている。呂氏までとはいかないまでも、底辺から成し上がった男だと成蟜は言う。
そして、成蟜はパチンと指を鳴らす。
ドパン!!
成蟜が指を鳴らした瞬間、成蟜の後ろにいた異様な大男が敦を壁に叩き潰したのだ。
「我慢ならんのだ、そういう連中が」
敦は泥臭い工人。呂氏は汚らわしい商人。
そして、異母兄である嬴政(えいせい)の母は舞妓だという。
「そういう人間に王宮をうろつかれると吐き気すらおぼえる!ましてや玉座に在るなど!」
「してご用件は?」
話の流れを読んだ竭氏が成蟜の真意を問う。
「今朝呂氏は一党を引き連れ魏遠征に出た」
「嬴政の庇護者である呂氏がいない今、嬴政を護るのは昌文君とその私兵のみ」
「大王を討てと!?」
「たとえお飾りの王だとしても、王に弓引けば我が一族は国賊…!」
話の大きさ、重大さに思わず声を上げる竭氏。
しかし、成蟜は冷静に話を続ける。
成蟜の描いた絵はこうだった。
大王・嬴政を殺し、昌文君一党も皆殺しにする。
昌文君に大王殺しの罪をきせ、反乱の首謀者に仕立て上げる。
王を護るという責務をまっとうできなかった呂氏も国賊として、倍以上の兵力で制圧する。
そして謀反人である昌文君を討ち取った竭氏と新王となる成蟜。
「成功した暁には私は…」
すぐに自分の損得を考える竭氏からの言葉に対し、成蟜は竭氏が最も欲しがっていた言葉を発する。
「俺は政治に興味がない。この国を一人占めすればよい」
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「我的大王(ウィーダダイワン)」
竭氏は深々と頭を下げた。
成蟜はその言葉を聞き、ニヤリと笑った。
第5話 感想・考察
信と嬴政、河了貂の長く厳しい脱出が始まりました。
おびただしい数の追ってから逃げる中で、3人それぞれの過去やキャラクターがはっきりとしてきます。
河了貂は山民族であることがわかりましたが、貂の一族はみんなあんな格好してたんですかね(笑)笑ってはいけないですが、あれが大勢いるとなると、ミステリーハンターもビビりますね。
そして今回は政の現在の状況がわかってきます。
政はお飾りの王様で、権力は全くない。
一体どんな心境なのでしょうか。よく政のように傀儡政権は時代に登場しますが、政ほど頭の切れる王であれば、自分の力の無さに何度も何度も嘆き、憤ったことでしょう。
政は表情にはあまり出しませんが、滅茶苦茶熱い魂の男なので、その心中は計り知れないです。
ちょっと想像するだけで涙が、、、
しっかし、成蟜と竭氏は悪すぎです。。。
いくらそれが弱肉強食の世の常とはいえ、王様暗殺してそれを第一の側近のせいにして、自分らは国のトップになるって。
ただ、ここでわかってないなと思うのが、そんな風に仕込んでも人の口に戸は立てられないということです。いずれ噂で反乱の首謀者が成蟜と竭氏であるということが流れ、打倒されると思います。
その辺がわかっていないのが、王宮という狭い世界でしか生きてきていない2人のダメな点ですね。民衆を舐めすぎです。
まあ、多分呂氏に滅ぼされると思いますが、、、
ちなみに、この話の最後に竭氏が言う「我的大王(ウィーダダイワン)」という言葉ですが、「我的」というのが「私の」という意味で直訳すると「私の大王」となります。
現王が嬴政であるにもかかわらず、成蟜を王と呼ぶことで今回の反乱に加わること、これから成蟜を王とあがめること、その他すべてを了承したという意味となっています。